DATE 2009. 1.30 NO .



 主役のセシルとローザは、今まで見てきた中で一番素敵な笑顔で眩しいくらいだった。

 皆、すごくきれいだ。
 いつの間にか、わたしの仲間には国の一番上に立つ人がたくさん。
 そんな中で、ローザみたいに貴族の生まれでもないわたし。
 あの旅がなければ、絶対来なかった、来れなかったであろう場所だ。

(やっぱり、落ち着かないなぁ……)

 思いっきりはしゃげるような年齢でもないし。
 こういう場で相応に振る舞う自信もないし。

 グラスを揺らしながら、セシルとローザを見やる。


『これならリディアでも飲めると思うよ』


 わたしのために、二人が選んでくれたお酒。鮮やかな色のチェリーが添えられている。
 ほんのついさっきなのに、今はもう二人の周りはすごい人だかりで、わたしは近づけそうにない。


『色がね、リディアにぴったりだと思ったんだ』

『飲みやすいかな、と思ったんだけど……無理しちゃダメよ?』


 セシルとローザの気遣いにもう一度心の中で感謝して、一口、飲んでみた。
 ……本当だ、甘くて飲みやすい――

 ――どこかで、変な物音がした。

「……?」

 わたしはグラスから目を離した。
 今の、何だったんだろう。
 気になって辺りを見回す――と、その正体はすぐにわかった。

「……今日はお前に何度もびっくりさせられるよ」

「エッジ」

 いつの間にか、目の前にエッジが立っていた。
 あれ、少し離れたところで誰かとしゃべってなかったっけ?
 わたし、こんな部屋の隅にいるのに。

「いきなり大人っぽくなって現れたかと思えば、その次はグラス両手で持って飲み始めるんだもんなぁ……ったく」

 何かぶつぶつ呟いているエッジも、旅をしていた時とは随分違う服装だ。
 あの頃こんな姿を見たら、わたしはきっと「似合ってない」って笑ったんだろうな。

 今は――違う。

「ほらほら、せっかく音楽も始まったってのに、お前は何こんなところでぼーっとしてるわけ?」

「ぼーっとしてなんかいないわよ!」

 エッジみたいには、なかなか振る舞えないんだよ。

「なら、一曲楽しもうじゃないか」

 ……わかってくれてるのかそうでないのか、どっちなんだろう。
 エッジは酔っているのか、少しあからんだ顔ににこにこ――じゃない、にやにやした表情を浮かべてるし。

「でも、わたしダンスなんて出来ないから――」

「――お前、俺を誰だと思ってるんだ?」

 身構えてしまったわたしに、エッジは手をさしのべる。

「俺がお前をお姫様にしてやるって」

 わかってくれてた、のかな?

「……ふふっ」

「な、なんだよ」

「じゃあエスコートしてもらおうかな。王子様のお手並み拝見、だね」

「言ったな、見てろよ」

「はいはい」

 手をつなごうとして、わたしはようやくグラスの存在を思い出す。

「どこ置いとこうかな……」

「どこでもいいだろ……って、お前また物騒な名前のものを……」

 グラスの中身を見やり、エッジが一瞬顔をしかめる。

「え、何が?」

「何でもない……ほら、ここにでも置いとけ」

 そう言うと、エッジはわたしの手からひょいとグラスを取り上げて、傍のテーブルに無造作に置いた。

「ちょっと、セシルとローザが選んでくれたんだからね!」

「はいはい、一曲終わったらまた飲めばいいだろ。次は俺も何か見繕ってやるって」

「もう……まぁ、別にいいけど……」

 そんな風に返しながら、わたしの心は弾み始めていた。
 大丈夫、もういつものわたしだ。

 それから、手をさしだした。






 エッジはわたしの手をひいて、どんどん広間の真ん中へと歩いて行く。
 少し前までの不安は何だったんだろう。
 うじうじしていたのがバカみたいに、今は楽しい気持ちでいっぱい。



 そういえば、誰かにこうやって手をつないでもらうのは久しぶりだ。
 もしかして、子供の頃セシルやローザにしてもらって以来かな。

 エッジの大きな手――あったかいね。







≪あとがき≫
 10000hitリクエスト企画その2。FF4で、「初めて手を繋いだエジリディ」です。
 なりあさん、どうもありがとうございましたー。
 初めて遅いな! でもこれが私クォリティ!

 お酒には一応念頭に置いたものがありますが、
 私笑えるほどに下戸なので、その辺描写が大変残念な出来なのが申し訳ない限りです。





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